crossing

クロッシング

制作：2005年

作家コメント
大学卒業後の2005年に僕は二つの大きなチャンスを得ました。一つは、セゾン現代美術館が作品を評価し、東京で個展のチャンスを与えてくれたこと、もう一つはNYに行く機会を得たことです。NYは当時、世界で最も発達した洗練された場所という先入観があったのですが、到着して明らかな治安の不安定さと、そこを当然のように生きる様々な人種、資本家と労働者、健常な者も病める者も等しく混在している姿に、大きなカルチャーショックを受けました。そこに行き交う人々から刺激を受けて「NYで画布を購入して、セゾンでの個展に向けて絵を描きたい」、そのような思いに駆られました。現在は閉店していますが、パールペイントという画材屋さんで、3×10Mの布を辿々しい英語でなんとか買ったことを今でも覚えています。

「Crossing」は、海を越えて受けた衝撃や固定観念の壁が崩れる感覚を、その頃、試し始めたばかりの「ステイニング（キャンバスに染み込ませる滲み技法）」で、あえて輪郭が溶けて曖昧になる絵画として描き上げた一枚です。東京での個展も無事成功し、その後、この作品が評論家や美術館の館長の目にも留まり、セゾン現代美術館（2007）での展示や、ヨコハマ グランド インターコンチネンタル ホテル（2022）のエントランスロビーなどにも展示をさせて頂ける機会に恵まれました。

門田 光雅（かどた みつまさ）プロフィール
1980年静岡県生まれ。 絵画の地と図への関心や、伝統的なメディウムの限界への挑戦、 色彩と筆致の相対的な関係性への模索の中で、美術の文脈の先にある絵画表現の新たな地平を探求している。そのスタイルが評価され、2019年にはMoMAのヤングパトロン協議会（旧ジュニアアソシエイツ）との共催でNYのリンカーンセンターにて個展を開催。近年では、「カラーズ ― 色の秘密にせまる 印象派から現代アートへ」（ポーラ美術館 2024）、「絵画のミカタ 5人のアーティストとみる群馬県立近代美術館のコレクション」（群馬県立近代美術館 2020）、「The ENGINE 遊動される脳ミソ 小野耕石×門田光雅」（セゾン現代美術館 2019）などに出品。セゾン現代美術館に作品が収蔵されている。