多面体 41

多面体 41

制作：2021年

作家コメント
多面体のシリーズは、2021年からの作品ですが、遡れば、2019年のNYでの個展を終えて、帰国後にたまたま立ち寄った「安野光雅」展の「ふしぎなえ」と言う代表作的な絵本についての解説文からヒントを得ています。そこには、“部分を見ればいいけど、全体を見ると理屈に合わない「ふしぎなえ」、トポロジー”と書かれていて、騙し絵における全体と部分の統合と不一致について、氏の言葉で説明があったように記憶しています。

僕の「光雅」という名前は、両親がこの絵本作家の安野光雅さんのファンで、そこから名付けたと聞いています。僕自身も安野さんの多くの作品や絵本を子供の頃から親しんでいて、「はじめてであうすうがくの絵本」のシリーズや「あいうえおの本」「旅の絵本」のシリーズ、「さよならさんかく」など、今日の僕の作家活動とその創造の欠かせない源泉の一つであるといっても過言ではありません。この「ふしぎなえ」という絵本は、騙し絵（多義図形や錯視）の絵本で、文字や解説が一切無い絵本ですが（簡素な作者略歴が最後のページにあるくらいです）、幼かった僕にも「絵」というものの奥には、多くの不思議や秘密が隠されていることを、十二分に語りかけてくるものでした。

今日の私たちの日常においても、それまで「わかりにくい」とされたものが「魅力」を伝えることができたとき、私たちの日常に新しい視点や考えの拡張をもたらすことがあります。絵画は普通、描き終えたらその画面は変化しないものとされますが、「多面体」はそのような、全体と部分の捉え方によって作品が柔軟に変化することができることを、僕なりに具体的に模索し始め出した最初期の作品のシリーズの一つです。コロナ禍で、緊急事態宣言が発令されていたとき、あえて開催したスタジオショー「Remote」という展示で（Art Collectors Circleの協力開催）、本格的に展開し始めたシリーズです。この展示ではVRを利用して、あえてWeb上でアトリエの風景を閲覧してもらうことを目的としました。自由に身動きの取れない状況を、むしろ展示のモチベーションに変えて、不自由の中で獲得できる自由を模索すること、普段あまり見たり触れることのない物事や場所を隔たりの中でこそ繋いでみる、といった意図も込めました。

門田 光雅（かどた みつまさ）プロフィール
1980年静岡県生まれ。 絵画の地と図への関心や、伝統的なメディウムの限界への挑戦、 色彩と筆致の相対的な関係性への模索の中で、美術の文脈の先にある絵画表現の新たな地平を探求している。そのスタイルが評価され、2019年にはMoMAのヤングパトロン協議会（旧ジュニアアソシエイツ）との共催でNYのリンカーンセンターにて個展を開催。近年では、「カラーズ ― 色の秘密にせまる 印象派から現代アートへ」（ポーラ美術館 2024）、「絵画のミカタ 5人のアーティストとみる群馬県立近代美術館のコレクション」（群馬県立近代美術館 2020）、「The ENGINE 遊動される脳ミソ 小野耕石×門田光雅」（セゾン現代美術館 2019）などに出品。セゾン現代美術館に作品が収蔵されている。