beam

ビーム

制作：2024年

作家コメント
「beam」は、2024年のLIME RESORT HAKONEで開催した「神はサイコロを振らない」展に、当初、出品をする予定で描いた作品です。「beam」は、光が一方向に向かう状態を指しますが、私の名前にも含まれている「光」を意識して描いたもので、鋭い直線的な筆致が無数に激しく重なり合う、葛藤の様なイメージを表現しています。

古来からも色彩と光を通じた様々な模索があり、かつてゲーテも「色彩は光のふるまいであり、苦しみである」というようなことを述べていて、またニュートンも、プリズムによって光の屈折率を確かめて、音楽の音階に対応して虹の7色を定めたという有名なエピソードがあります。見ることのできない自身の内側にある言語化が難しいことや、解きほぐすことの出来ない多面的な感覚は、むしろその不可解さをそのまま画面へと透過させることが、私たちの見えない本質と向き合うための手段や方向性の一つなのかもしれないと、歴史上の偉人たちも随分翻弄されていたような話からヒントを得ることがありました。この年の自身のわだかまりも、無意識に投影されている作品の様にも思え、この作品には「光線」という同年に描いた姉妹作がありますが、両作品とも、この年の発表は控えました。

ちなみに、「神はサイコロを振らない」という言葉は、アインシュタインが量子力学に対しての見解を述べた言葉で、「現象は全て数式で示せる」という自身の信念を表明したものですが、最近の研究ではこの考えは否定的に捉えられています。（かのスティーヴン・ホーキング博士は「神はサイコロを振るだけではなく、時に見えないところでサイコロを振っては私たちを混乱させる」と述べています）。アインシュタインにも誤解があるという、逆に響く言葉で、またサイコロを無意味に振り続けるような私たち芸術家の、そして人間の滑稽を、どこか暗示する言葉であるような気もしています。

門田 光雅（かどた みつまさ）プロフィール
1980年静岡県生まれ。 絵画の地と図への関心や、伝統的なメディウムの限界への挑戦、 色彩と筆致の相対的な関係性への模索の中で、美術の文脈の先にある絵画表現の新たな地平を探求している。そのスタイルが評価され、2019年にはMoMAのヤングパトロン協議会（旧ジュニアアソシエイツ）との共催でNYのリンカーンセンターにて個展を開催。近年では、「カラーズ ― 色の秘密にせまる 印象派から現代アートへ」（ポーラ美術館 2024）、「絵画のミカタ 5人のアーティストとみる群馬県立近代美術館のコレクション」（群馬県立近代美術館 2020）、「The ENGINE 遊動される脳ミソ 小野耕石×門田光雅」（セゾン現代美術館 2019）などに出品。セゾン現代美術館に作品が収蔵されている。