誓願寺

誓願寺

制作：2025年

作家コメント
2025年の3月、京都観世会館で開催された能楽師の河村晴久さんの「誓願寺」のご公演を観た後、能装束に施されている、装飾の特徴について教えていただく機会を得ました。「同じ模様の型が、ただ反復しているものに一見みえるが、実は使用する色彩が少しずつズレていて、それが広がりを表現している」とのことでした。実際のお召し物を拝見させていただくと、確かに部分によって色彩の配置が異なっており、非常に多様なバリエーションが意匠性の中に隠れていることに気付かされました。

限定された色数や型の中でも、その組み合わせの差と変化によって様々なパターンを表現することができます。このプロセスは、「能」という極められた様式美の根幹にも通じるもので、私たちの知覚が及ばない神仏の神聖な世界の【広がり】に結びつくための、重要な手掛かりの一つを河村さんから教えていただいたように思えた出来事でした。「誓願寺」は、私にとって、そのような思い出深いタイトルで、潔い青のストロークが画面を横切る、目覚めや気付きのような新鮮なイメージを描きました。

門田 光雅（かどた みつまさ）プロフィール
1980年静岡県生まれ。 絵画の地と図への関心や、伝統的なメディウムの限界への挑戦、 色彩と筆致の相対的な関係性への模索の中で、美術の文脈の先にある絵画表現の新たな地平を探求している。そのスタイルが評価され、2019年にはMoMAのヤングパトロン協議会（旧ジュニアアソシエイツ）との共催でNYのリンカーンセンターにて個展を開催。近年では、「カラーズ ― 色の秘密にせまる 印象派から現代アートへ」（ポーラ美術館 2024）、「絵画のミカタ 5人のアーティストとみる群馬県立近代美術館のコレクション」（群馬県立近代美術館 2020）、「The ENGINE 遊動される脳ミソ 小野耕石×門田光雅」（セゾン現代美術館 2019）などに出品。セゾン現代美術館に作品が収蔵されている。