空洞の結晶

空洞の結晶

制作：2008年

作家コメント
「さよならさんかく」という日本に古くから歌い継がれてきた童歌があります。「さよなら三角また来て四角、四角は豆腐、豆腐は白い、白いはウサギ、ウサギは跳ねる、跳ねるはカエル、カエルは緑・・・」イメージの連想がしりとりのように繋がっていきます。幼い頃、安野光雅さんのこの童歌の絵本が好きで、何度も繰り返し読んでいました。私の名前の由来は、両親がこの安野さんのファンで「光雅」という名前をつけたと聞いています。成長した私が画家の道を選んでいることは私の命名の奇縁と同じく、童歌の連想の結びつきのように、不思議な力の導きがその根底にあったのかもしれません。

絵本は逆さまにして読むことができ、反転させれば何度でも繋げて繰り返えせる仕掛けになっていて、きっと時代の変遷と共に失わせてはならないものがあることへの、氏からの静かなメッセージだったように思います。その不思議なわらべ歌は、絵本の世界の中で永遠に続いているのですが、一応の最後のページは「消えるは忍者」で締められていました。時代の変遷とともに培われ失われる万物の流転も、この絵本が教えてくれたように思えます。「空洞の結晶」はその「さよならさんかく」から触発された展示を2008年に行った際、制作した作品です。

門田 光雅（かどた みつまさ）プロフィール
1980年静岡県生まれ。 絵画の地と図への関心や、伝統的なメディウムの限界への挑戦、 色彩と筆致の相対的な関係性への模索の中で、美術の文脈の先にある絵画表現の新たな地平を探求している。そのスタイルが評価され、2019年にはMoMAのヤングパトロン協議会（旧ジュニアアソシエイツ）との共催でNYのリンカーンセンターにて個展を開催。近年では、「カラーズ ― 色の秘密にせまる 印象派から現代アートへ」（ポーラ美術館 2024）、「絵画のミカタ 5人のアーティストとみる群馬県立近代美術館のコレクション」（群馬県立近代美術館 2020）、「The ENGINE 遊動される脳ミソ 小野耕石×門田光雅」（セゾン現代美術館 2019）などに出品。セゾン現代美術館に作品が収蔵されている。